
部分窒化防止もOK。クリーンでECOな電気の力による窒化です。
真空に近い状態まで減圧した炉内で、処理品を陰極、炉壁を陽極とし、350~1000ボルトの電圧をかけると、処理品周囲にグロー放電(プラズマ)が発生します。
プラズマ窒化処理は、このグロー放電を利用して、炉内に送り込んだ少量のN2とH2の混合ガスをイオン分解し、分解されたNイオンによって処理品を窒化する方法です。
製品表面には鉄の窒化物による化合物層が生成され、耐摩耗性、耐疲労強度、耐食性が向上します。
更に窒化前に製品表面にHイオンを衝突させ窒化阻害物をクリーニングするスパッタリングを行えば、ステンレスなど強固な不動態膜により通常のアンモニアガス窒化ができない鋼種でも窒化が可能です。
他の窒化法に比べて最大のメリットは、治具で処理品を部分的にカバーしグローを遮断することにより、部分的な窒化防止が可能となることです。
例えば、ねじ部の靱性低下や寸法変化を防ぎたい、後加工で溶接や切削加工を行う等の理由で、部分的に窒化防止を行いたい場合に非常に有効です。
400℃~560℃の広い低温域で窒化が行え、冷却も炉内徐冷であることから、熱歪みが極めて少なくできます。また、使用する原料ガスも非常に少量で、工程が無公害であることも大きな特徴です。
プレス材(SPHC)に対する、530℃×10Hでのプラズマ窒化の一例です。
プラズマ窒化の特色である防窒化治具による部分的な窒化防止を行っており、下図は窒化部と防窒化部を比較した組織写真です。
左の窒化部では、表面硬さHV600、化合物層は約10μm形成されていますが、右の防窒化部は、未処理の素材とほぼ変わらない表面硬さHV150のまま、化合物層も生成されておらず、ほぼ完全な窒化防止がされています。なお、プラズマ窒化は設備特性上熱処理後の冷却は炉内徐冷になりますので、化合物層直下以降の内部窒化拡散層には針状窒化物が析出した組織形態になっています。

SPHC材のプラズマ窒化組織
プラズマ窒化装置部分は、炉体(真空反応器)、ガス供給系、電気ユニットおよび真空ポンプから成り立っています。
炉体内壁を陽極、処理物を陰極にセッティングし、真空ポンプにより1から10Torr程度まで減圧し、処理を行います。

プラズマ窒化炉の構造

プラズマ窒化における表面反応
プラズマ窒化法 | |
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原理 | 真空炉内でグロー放電により、N₂ガスをイオン分解し、N成分を浸入拡散させる。 |
処理鋼種 | 全鋼種 |
処理温度 | 450~570℃ |
処理時間 | 1h~30Hr |
部分窒化 | 容易(防窒化治具が必要) |
形状の適正 | 複雑形状は不向き、細く深い穴は窒化できない |
熱源 | 放電現象による発熱または外部ヒーターとの併用 |
熱処理変形 | 小(ただし、条件によっては極小) |
化合物層の性状 | ポーラス発生なしεまたはγの単層が可能 |
生産性 | やや低い |
コスト | イソナイト、ガス軟窒化よりやや高い |
- 適用鋼種:すべての鉄系金属
- イオンが表面をクリーニングするため表面脆化層の生成を抑え、滑らかに仕上がるので後加工が必要ありません
- 製品の用途に応じて幅広く窒化温度を選択することができ、低温で処理すれば熱歪を最小限に抑えられます
- 処理可能寸法が大きく(Ø750×1,500Hmax)、長尺物、重量物の処理にも適しています
- 防窒化治具を使用すれば、部分的窒化防止が容易に行えます
- 耐摩耗性、耐疲労強度が向上します
- 耐食性が向上します(窒化防止部は除く)
- 無公害

Ø750×1500H
建機部品、輸送機器用ミッション・クラッチ部品、切削工具類、金型 等
(リングギヤ、クラッチハウジング、リーマ 等)